夏目漱石全集
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だいぶ前の話になるけど、アトランタへの通勤の時間を有効に使おうと思って、Amazon Kindleで夏目漱石全集を2ドルだか3ドルで買った。主要作品は文庫本で持っているけど、マイナーな作品も読めてとてもよかった。
自分が夏目漱石を好きになったのは1997年の高校時代に遡る。国語の授業で「こころ」の抜粋を扱って、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」などの文句、恋愛の葛藤、人間心理の鋭い洞察などにいたく感動した。自分はもともと国語は大の苦手科目で、「こころ」を読んだことで成績も上がらなかったけれど、のちに文学に触れるきっかけにはなった。どれぐらい苦手科目だったかというと、学芸大附属校の校内模試で学年で下から2番になったこともある。1997年秋の東大模試の数日後に、同級生から「お前は国語が27点だったろう。国語ではお前に勝った」などと言われ、どうしてわかったと聞いたら、成績優秀者一覧の総合得点から国語以外の各科目の点数を引いたそうだ。1998年のセンター試験では総合得点が726だったのに国語は133で(それ以外の失点は、英語と物理でそれぞれ1問間違い)、古文に至っては0点だった。まあ、国語を勉強するコツもわからなかったし、他の教科で補えばいいやという甘えがあって全然勉強しなかったから仕方ないのだが。
それはどうでもいいとして、夏目漱石の作品の中で自分が特に好きなのは「行人」と「こころ」である。「行人」の長野一郎が、学問一筋なところとか、他人の気持ちがわからなくて葛藤しているところなどが自分と重なって非常に共感する。「こころ」の「先生と遺書」の6章にある「あなたも御承知でしょう、兄妹(きょうだい)の間に恋の成立した例(ためし)のないのを。私はこの公認された事実を勝手に布衍(ふえん)しているかも知れないが、始終接触して親しくなり過ぎた男女の間には、恋に必要な刺戟(しげき)の起る清新な感じが失われてしまうように考えています。香をかぎ得るのは香を焚き出した瞬間に限る如く、酒を味わうのは、酒を飲み始めた刹那にある如く、恋の衝動にもこういう際どい一点が、時間の上に存在しているとしか思われないのです」のくだりを何度読み返したことか。同じく9章の「実をいうと私はそれから出る利子の半分も使えませんでした」のくだりを読んだときは、高等遊民はなんて格好いいんだろうと思って、大学生の頃、高等遊民になることを人生の目標に決めた。だんだんそれに近づきつつあるのを喜ばしく思う。
他にも、「三四郎」、「それから」、「彼岸過迄」もいい。年を取ってからは、「道草」や「明暗」も非常に味わい深いと思うようになった。